中国漢詩紀行(1)
(・桂林・蘇洲・寒山寺・上海)

平成14年の夏NHKの中国桂林紀行(ハイビジョンビデオ録画)を見ているうちに、以前から人の噂に聞いていた「中国桂林地方の風景の素晴しさ」を実感したくなり中国旅行を思い立った。

だが、いざ行動を起してみると以外に面倒である事が分った。最初にぶっつかったのが「ビザの問題」である。欧米諸国の旅行の場合は、パスポートのコピーを提出するだけで用が済んでいたのが、この国では政治形態の違いからかビザの取得まで、二週間以上待たされる事が分った。

次に「飲み水の問題」である。聞くところによると、中国では、飲み水が中国全域何処へ行っても「硬水」であり、日本のように「軟水」ではないために、日本人があちらの水道の水などを直接飲んだら、必ずお腹を壊して下痢をするということであった。この話を聞いたとき私は、昔、日本から色々な理由で中国に渡った人達はさぞ苦しい思いをしたことであろうと直感したものである。
ともあれ、準備やビザ待ちで出発したのは10月7日。飛行機で上海へ飛び一泊。上海の市内見学の後2時間の飛行機移動で桂林へ移動して一泊。
三日目は朝からチャーター船で「漓江下り」(写真参照)に出発した。
船上からの風景-1 2 3
私が乗った船-4 船尾デッキ-5 6
7 船尾デッキ-8 9
天気は快晴。文字通り雲ひとつ無い漓江の秋。墨絵暈しの風情を期待していたが、それは贅沢と言うものであろうか。河の両岸に延々と連なる奇岩の群れ。河の水はあくまでも静かで、行き来する船の鳴らす警笛が岩山にこだまして旅情を掻き立てる。幸に?船の乗客が少なく船内を自由に散策しながら船上の旅を満喫した。羊の蹄に似ている所から名付けられ有名な「羊蹄山」も目の前だ。

幸いに人気の無い船尾へ行って声を出すことが出来た。「早に白帝城を発す」「峨眉山月の歌」「楓橋夜泊」等有名な中国詩である。李白や杜甫も、きっとこの景色を見たに違いない。白居易だってそうだ。今、自分が、かって彼らが愛したこの風景を秋日燦燦とした船旅で同じ様に味わっている事がとても不思議にそして幸せに思えて仕方なかった。
前を行く浚渫船-10 11 「羊蹄山」-12
13 14 二階デッキ-15
前 同-16
寒山寺前の堀 寒山寺正面 前 同
前 同 漢詩「楓橋夜泊」の原書 寒山寺「鐘楼」
実際に鐘を衝いております 鐘楼の外観 正面は「聴鐘石」
船は途中で、神秘的な鍾乳洞(冠岩(カンガン)へ案内してくれた。中へ入ってみてその洞窟のスケールの大きさに舌を捲いた。鍾乳石そのものの美しさは、日本の秋吉台の方が上かもしれないが、洞窟の規模の大きさは桁違いである。中にエレベーターや遊覧ボート更にはトロッコの設備があって、登ったり下ったり、地下数十メートルのところに流れる地下水路の冷たさと透明度、そこに備えてある数十隻の遊覧ボートとそこで働いている人たち。こんな仕事もあるんだなあと感心することしきりの連続であった。ともあれ無事に漓江下りは終了し、再度上海へユーターンして一泊。

 四日目は上海からバスで蘇州へ。日帰り観光である。町の到る所に運河があって、しだれ柳の並木が続く。町全体の風情が、衣を纏った宮廷の女性の様な柔らかな雰囲気が感じられて何処と無く優雅である。「虎丘」や中国四大名園の一つ「拙政園」を見た後、憧れの「寒山寺」へ。詩吟をやる人なら誰でも知っている「楓橋夜泊(張継)」の舞台である。日本の建物と違って、誇らしげに上空に反り返った屋根の廂。「楓橋夜泊」の漢詩が石に掘り込まれて保存されている。作者「張継」の直筆の詩を土台にして掘り込んだものだそうだ。鐘突き堂へ上って実際に鐘を鳴らしてみた。何とも言えない感慨が胸を過る。かって張継が耳にした鐘の音も、この音と同じだったのであろうか。

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初めて訪れた「寒山寺」。私のイメージの中の「寒山寺」は、以前から「深い山奥の谷川沿いに面した高い崖の上で、深山幽谷の風情の中にある古びたお寺」と言う形が出来上っていて、日本の「奥の細道」に出てくる「山寺」のような古刹で無ければならなかったのだが、今回、この地を訪れてそのイメージは完全に打ち消され、川沿いの平地に建っている何の変哲も無い建物である事を、いやと言うほど認識させられ、その点では少なからず興味をそがれた感じでした。
近くの橋の上で、「楓橋夜泊(張継)」の詩を吟じて見たものの、期待したほどの深い気持は湧いてこなかったというのが正直な気持でした。
後は「蘇州」で唯一残っていると言われている「水門(盤門(バンモン)」を見学し、名物の刺繍の研究所を訪れた後、旅行最終日の見学は終了した。
蘇州市街地を望む 前 同 今も残る「水門」(盤門)
拙政園 拙政園 蘇州市街地
上海高速道出口 賑やかなレストラン 刺繍研究所
上海(ワンタンから対岸を) 上海夜景 前 同
前 同
この旅行で私にとっては目的の一つであった「寒山寺」の佇まいが、自分の予想と違っていた事もあってか体を震わせるような感動を覚えるところまでは到らなかったというのが実感でした。

 往復時間を入れて五日間の中国旅行でありましたが次はもっと予備知識を持って時間をかけて、ゆっくりと廻ってみたいものだとつくづく思いました。